東京地方裁判所 平成9年(行ウ)256号 判決
原告
大庭正明(X)
被告(東京フロンティア臨海開発調整部総務課長)
田原和道(Y)
同(前同)
碇山幸夫
被告(出納長室総務課長)
中島守
同(福祉局総務部総務課長)
稲熊明孝
同(環境保全局環境管理部総務課長)
長野宏
同(港湾局港営部港営課長)
阿部功
同(港湾局港湾整理部建設調整課長)
太田勝政
同(港湾局離島港湾部管理課長)
太田佑之
同(清掃局ごみ減量対策室課長)
三宅広人
同(住宅局総務部経理課長)
前川燿男
同(労働経済局総務部総務課長)
押切重洋
同(財務局経理部総務課長)
矢島紘一
同(財務局用地部用地課長)
松下秀夫
同(建設局総務部総務課長)
磯邊武一
同(建設局総務部経理課長)
髙岡信也
同(建設局道路管理部管理課長)
吉田安輝
同(教育庁総務部企画課長)
久保大
同(教育庁総務部総務課長)
梶井稔
同(前同)
上條弘人
同(選挙管理委員会事務局総務課長)
宮本辰夫
被告ら訴訟代理人弁護士
伊東健次
事実及び理由
第四 当裁判所の判断
一 住民監査請求の対象の特定について
法二四二条が規定する住民監査請求は、直接請求の一つとしての事務の監査請求(法七五条)とは異なり、住民一人でもすることができるとされている反面、その対象は具体的な違法、不当な財務会計上の行為等に限定されている。また、住民監査請求は、違法な財務会計上の行為の防止、是正を請求する住民訴訟の前置手続として位置付けられ、不当な行為等をも対象とすることができるとされているほかは、住民訴訟との間に区別は設けられておらず、違法又は不当な行為等についてはその事実があることを証する書面の添付が必要とされ(法二四二条一項)、各行為の時から期間を計算する監査請求期間が定められている(法二四二条二項)。
これらの規定に照らせば、住民監査請求における財務会計上の行為等の特定は、監査委員に対して監査の端緒を与える程度のものでは足りず、違法、不当とする財務会計上の行為等を他の事項から区別し、特定して認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するのであって、また、右行為等が複数である場合には、右行為等の性質、目的等に照らしてこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、違法、不当とする各行為等について、それぞれ他の行為等と区別し、特定して認識できるように個別的、具体的に摘示して住民監査請求をしなければならないものと解すべきである(最高裁判所平成二年六月五日第三小法廷判決・民集四四巻四号七一九頁参照)。
二 本件へのあてはめ
1 これを本件についてみると、原告は、補正命令に対する回答として、本件監査請求において「重大な不適正支出」として返還を求めている支出は本件監査請求書添付の「別紙1」記載の支出すべてであると主張するが、本件監査請求書において原告が不適正支出として返還を求めている金額は三億円と記載されているところ、本件監査請求書添付の「別紙1」記載の支出額を合計した金額が三億円を超えていることは明らかであり、原告が本件監査請求において「重大な不適正支出」であるとして返還を求めている支出が本件監査請求書に添付された「別紙1」記載のすべての支出であると解することはできない。仮に、本件監査請求が本件監査請求書添付の「別紙1」記載の平成四年度の会議費の支出の一部を違法と主張する趣旨であるとしても、本件監査請求書及びその添付資料には、そのいずれを違法とするものかの特定がされておらず、本件監査請求の対象の特定を欠くというほかない。
2 なお、仮に、原告が主張するとおり、本件監査請求の対象たる支出自体は、本件監査請求書に添付された「別紙1」により特定が可能であると解したとしても、本件監査請求は対象の特定を欠き、不適法というべきである。
すなわち、本件監査請求書には、右各支出に関する具体的な違法性又は不当性に関する指摘はなく、個々の支出に関する領収書等の添付もない。そして、本件監査請求書には、本件各支出の違法事由として、都が平成五年度から平成七年度までの会議費について調査した結果、不適正支出が判明したが、平成四年度分についても「平成5年度以降と同様の記載がなされ、都が「重大な不適正処理」として返還した内容と全くと言っても良いくらい「同一」であり、又、公開された件名・開催場所からカラ会議であるものも多数判明した。」との指摘があるだけであり、具体的に右違法事由がどの支出に関するものかが明らかでなく、本件監査請求書添付の「別紙1」記載の平成四年度の会議費についても「重大な不適正支出」が行われていることは明白であるとし、「平成4年度の会議費の一覧を別紙1で添付するので、平成5―7年度同様調査し返還させるよう求める。」と記載されているに止まる。そうすると、原告の本件監査請求は、本件監査請求書添付の「別紙1」記載の支出に関し、抽象的に違法、不当の疑いがあるとして、その調査を求め、違法又は不当な行為があった場合にはその是正を求める趣旨であって、結局、「違法、不当な行為」を個別的に特定するものではないというほかない。
3 右のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件監査請求は、対象の特定を欠く不適法なものであり、したがって、本件訴えはいずれも適法な監査請求を経ていない不適法な訴えというべきである。
三 以上によれば、本件訴えは、いずれも不適法であるから、却下することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 水谷里枝子)